吉田敦彦、日本の神話学者で1934年12月22日生まれ。1987年の出版で、この本を数十年前に読みギリシャ文化に眠る深層を掘り起こしている良書と思った。

目 次
はしがき
第一章 喜劇の性表現とユートピア
第二章 アポロンとデルポイの神託の真相
第三章 最初の女パンドラと人間のモイラ
第四章 ギリシャ神話の馬
第五章 ディオニュソスの狂気と信女らの至福

 全体を通してギリシャ劇をモチーフにして、ギリシャ文化の深層に迫っている。第一章「喜劇の性表現とユートピア」で、アリストパネスの『平和』の喜劇で、主人公トリュガイオスのコガネムシに男根を与えて、コガネムシに乗ってオリンポスの到達する。ゼウスを初めてしてオリンポスの神々の不在を象徴するかの様で有る。ちなみにコガネムシ(スカラベ)とディオニュソスはエジプト産である。喜劇での最高神ゼウスを揶揄する事で、その権威の束縛と規律の拘束力を失墜させ、混沌とした黄金時代のクロノスの時代に向う。このゼウス以前の時代へと回帰する喜劇として、紀元前5世紀アリストパネスの同時代のプリュニコスの作品『クロノス』クラティノス『福神たち』などがある。

 第二章「アポロンとデルポイの信託の真相」では通常の解釈ではデルポイのアポロンの神殿とデメテルのエレウシスの神殿が明暗として、ギリシア人の精神の醸成となっていたが、アポロンの神話構成に大母神ガイアの所有する地下の神託所を番人の竜を殺して、神託所を占拠するなど、単一的な光明的な要素の中に闇の部分を孕んでいる。また、アポロンは神から万病を治癒する秘薬の芳ばしい香料を地上に 滴らせて人間の苦悩を解消する一方、厄病の矢を放って死をもたらす。

 第三章から最終章の第五章まで、ギリシャ文化の光と影を通してギリシア文化の深層に迫っている。個人的で有るが、デルポイ神殿の三つの箴言、「汝自身を知れ」「保証はやがて、身を破滅」「何ごとにも、度を過ごすな」の解釈。ギリシャ人は人を知り、神を知っていたのかもしれない。だから、哲学、そして科学が発生したのかもしれない。

 吉田敦彦の近著書として、2018年出版の「ギリシア神話の光と影 ―アキレウスとオデュッセウス」が有る一読の価値はありそうである。

 

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